サイトア




紅茶色のドライフラワーの薔薇が、目の覚めるような真紅に染まるころ。
私の部屋では、毎夜の宴の準備が始まる。

銀色のシダが、ガラス製のワゴンでお茶のセットを運んでくると、
その甘い香と優しい湯気に、本棚で座っていた人形が伸びをした。


「今夜は随分と早いのね、サイトア」
「アンバーが早いだけだよ、まだ皆は眠っている」

一番、遊びたがりの少女人形に、私は笑って答えた。


「夜の祈りは、もう済んだの?」

静かな声に振り向くと、真っ白いドレスの月夜だ。
眠っていたときと変わらない姿勢のまま、三白眼の睨みつけるような淡い緑の目だけを開いて座っている。


「・・・済んだわよ」
「どうかしら」


好奇心旺盛のアンバーと、冷めている月夜のウマが合わないのは、いつものことだ。
私もシダも仲裁しようとはしない。
いつもここに割って入るのは、妖精の衣装を着た人形の南だ。


「随分と楽しそうね、お二人さん」


相変わらず、南のアイスブルーの瞳は、どこを見ているのか分からない。
けれど、自分以外の誰も、この可愛らしいけんかを止めようとしないことは解っているようだ。

アンバーは口をつぐんでそっぽを向く。
月夜は何事もなかったかのようにすまし顔だ。
ただ南の隣に座っている、双子人形の蘭だけが、不安そうにそれぞれの人形を見回していた。
私はそれに気付いて声をかける。


「怖がることはないよ。アンバーと月夜のけんかもいつものことだし。
それに二人は本気で嫌い合っているわけではないと、分かるだろう?」


蘭が震えながらうなずくと、ビスクの体が乾いた音をたてた。



「はい、お茶がはいりましたよ」


シダの落ち着いた声に皆、白いテーブルを振り返る。
揺り椅子に腰掛けていた等身大の少女人形も、最後にゆっくりと目を開けた。



こうして、すっかり日が沈んだころに、毎夜の宴は始まる。


太陽の祝福を受けられないものたちが、動き始める時間だ。




だいぶ昔に書いたものです。
表現がコテコテで、直したいところも
多かったのですが、まるでイメージが
変わってしまうのでほんの少しの修正
だけに留めました。

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